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きらめけ!アイドル!!
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アイドルのたまご

 「では姫宮さん、本日は審査員の1人として宜しくお願いしますね」
 都内の小さめな建物の中、未来のアイドルを発掘するオーディションが開催されることとなった。 今、人気急上昇中のTwinkle Sistersから代表で桜がこのオーディションの審査員に選ばれた。
 アイドルのオーディションといったら受ける側だった桜は、審査員の1人としてオーディションに参加することとなりただならぬ緊張で手を小さく震わせていた。
 (うぅ、アイドルのオーディションに審査員で呼ばれるなんてビックリだよ…! ちゃんと審査員できるかなぁ…)
 控え室でオーディションの流れがまとめられた資料に目を通しながらも、緊張で落ち着くことはなかった。 そうしている間にも時間は過ぎて、いよいよオーディション開催の時間になった。
 「姫宮さん、なんだか顔色悪いけど大丈夫?」
 「あっ、はい!! 審査員って初めてなので、ちょっと緊張しちゃって…!」
 同じく審査員として今日、桜と共にオーディションに参加する若い女性が桜を気にして声をかける。 女性はとても落ち着いた様子で、今の桜とは真逆な様子でいる。
 女性は桜に優しく微笑みかけ「大丈夫よ、緊張しないで」「深呼吸、深呼吸」と励ましてくれる。 おかげで少し落ち着きを取り戻した桜は女性が自分にしてくれたように、自分も女性に微笑みかける。
 「ありがとうございます、おかげで少し緊張がほぐれたみたいです!」
 「良かった、初めてのことは誰だって緊張するものね。 未来の素敵なアイドル発掘のため、真剣に取り組みましょうね」
 「はい!」
 しばらく2人で何気ない会話をしていると、スタッフが呼びにくる。 いよいよオーディション開催だ。

 「では、これより。 未来のアイドルを発掘するオーディション『アイドルのたまご』を開催します」
 「今日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
 審査員は全員で5人、その中の1人が桜というわけだ。 真面目そうな男性がスムーズに進行させ、次は実技発表となった。
 実技発表はアイドルにとって大切なボーカルとダンスを1人1人発表していくもので、オーディションを受ける少女たちは緊張でざわめきはじめた。
 (あぁ、わかる…わかるよぉ…! すご~く緊張するよねぇ、懐かしいなぁ…!)
 桜もかつてはオーディションを受け、合格した1人である。 オーディションを受ける喜びと緊張はここにいる誰よりもわかっているつもりだった。
 「では1番の立花 ひよこさん、前に出て発表してください」
 「は、はい!」
 呼ばれる少女たちは誰もがとてもかわいらしく、今すぐアイドルデビューしてもおかしくないほどだった。
 (だけどアイドルって見た目だけが全てじゃないんだよねぇ…そこが大変なところ)
 アイドルは見た目が良ければ誰でもなれるという単純なものではないと、今までの経験から桜は痛いほどわかっていた。 特に学業とアイドル、両立させることの大変さといったら…。
 「姫宮さんからはなにかありますか?」
 「へ?!」
 今までの自分に思いをめぐらせていると、進行役の男性審査員から声をかけられる。 思わず気の抜けた返事をしてしまった。
 「あぁ、いや。 現役アイドルの姫宮さんからもご意見を伺いたいと思いまして」
 「あっ、あぁそうですねすみません! えぇと、立花 ひよこさんは…」
 現役アイドルとしての意見やアドバイスを話すと、オーディションを受ける少女たちから憧れのまなざしを向けられる。 小さな声で「姫宮 桜さんだ!」とも聞こえてくる。
 まだまだ走り始めたばかりのTwinkle Sistersだが、こうして自分たちのことを知っている人を目の前にすると審査員という立場も忘れてしまうくらいに嬉しい。 きっとこの場に楓や若葉がいても同じように感じるだろう。
 できることなら自分たちを見てアイドルに憧れてもらえるような、そんな素晴らしいアイドルになりたいと桜は思った。
 (ううん、絶対になってみせるんだから!)
 桜は机の上に置かれた手をぎゅっと強く握って心に誓う。

 オーディションは順調に進んでいった。 オーディションを受ける少女の中には強烈な個性を持つ人物もいて、桜の緊張は次第に影を潜め笑顔が増えていった。
 もうオーディションが始まってから1時間近く経つが、こうしてずっとアイドルのたまごを見ていたいという気持ちさえひょっこり顔を出してきた。 しかしオーディションは進んでいくもので、ついに次の少女で最後となった。
 桜は残念だと思いながらも、おおとりの少女へと目をやった。
 (この子が最後かぁ~…って、んん?)
 おおとりを飾る少女は桜と同じ、桃色の髪をしたまさにアイドル!といった姿をしていた。 しかし、マイクを握る手は少し見ただけでわかるほど震えていた。 どうやら先ほどの桜と同じように、ひどく緊張をしているようだった。
 「50番の上岡 ミーコさん。 お願いします」
 「あ、えっと……」
 「どうかしましたか?」
 「あ、いえ…っ!」
 ミーコという少女はマイクを口元まで運び準備万端といった様子だが、緊張からかうまく話せないでいる。
 「え、えと…50番、上岡 ミーコ…です」
 「大丈夫ですか? リラックスしてくださいね」
 「あう…は、はい!」
 どの少女も少なからず緊張している様子が見受けられたが、ミーコは誰よりもひどく緊張していた。 このオーディションは書類選考を通った有望な少女たちが参加している。 なのでこのミーコという少女も魅力は十分にあるのだろう。
 「えっと、私は小さい頃からアイドルが好きで…歌うのも好きで、アイドルになりたいと思っていました。 だから、頑張って歌います!」
 「はい、では歌ってください」
 「は、はい!」
 ミーコは深呼吸をした後、そっと歌いだす。 しかし声は震え、まるで内緒話でもするかのように小さくか弱い歌だった。 審査員の中には顔をしかめてしまう者もいた。
 (みっ、ミーコちゃん頑張れ~! 声かわいいし、頑張って歌えば合格狙えるよ!!)
 桜は心の中で大声で声援を送る。 しかしミーコは相変わらずの様子だ。
 このままでは彼女の魅力を知ることができず、オーディションが終了してしまう。 桜はどうすればミーコの緊張をほぐすことができるか必死になって考えた。
 (えぇと、私がライブで緊張しちゃったときどうしてたっけ…! 今のミーコちゃんみたいにうまく歌えないとき、あったよね。 そんなときは……)
 桜はそこまで考えて「あ!」と口にする。 次の瞬間、イスから勢いよく立ち上がった。
 「ひ、姫宮さん? どうかしましたか?」

 ―――楓ちゃんと若葉ちゃんが一緒に歌ってくれた!

 「あ、あの! ミーコちゃ……上岡さんと一緒に歌わせてくれませんか!?」
 「え、えぇ!!?」
 桜の突然の申し出に会場にいる全員が驚きの声をあげる。 もちろんミーコも、うつむいていた顔を上げて桜に視線をやる。
 「もちろん、これはオーディション。 オーディションで実力を発揮できないのは自分の力不足です。 だけど、このまま上岡さんの魅力を知れないのはもったいないです。 だから…一緒に歌わせてください!」
 自分以外の審査員に…いや、会場の全員に頭を下げる桜。 会場全体がざわついている、今までに例のない事態だ。 下手をすれば桜自身に好ましくない評判が与えられてしまうかもしれない。
 (だけど、このまま未来のアイドルが埋もれていっちゃうのはイヤ!)
 頭を下げたまま固まる桜、会場はまだざわついている。 数十秒は経っただろうか、しばらくすると審査員たちは小さな声でなにかを話し始める。 そして1人が立ち上がり予備のマイクを桜に手渡す。
 「今回は特別ですよ」
 「ほ、本当ですか!?」
 「えぇ、ですが彼女…上岡さんの実技は先ほどのもので選考させていただきます」
 「は、はい!」
 桜は審査員からマイクを受け取り、急いでミーコの元へと駆け寄る。 ミーコは目を丸くして桜を見ている、ほんのり顔が赤くなっているような気がする。
 「上岡さん、突然のことでごめんなさい。 だけどどうしても放っておけなくて…!」
 「あ、な、なんでですか…!?」
 「え?」
 「なんでTwinkle Sistersの桜さんが私なんかと一緒に…!?」
 桜に話しかけられ、ミーコは喜びと困惑をごちゃごちゃに混ぜたような表情をする。 手の震えも先ほどより大きくなっている。
 「私…Twinkle Sistersに……桜さんに憧れてこのオーディションを受けて…だから…!!」
 どうやらミーコは桜に憧れアイドルを目指しているようだった、そのことを知り桜も同じように顔を赤くする。
 「え、え!? わ、私に憧れて、アイドルに…!?」
 「は、はい…!」
 そんな風に言われて喜ばないアイドルはきっといないだろう、嬉しくて爆発しそうなほどだった。
 「あ、ありがとう…! な、なら!憧れのアイドル…え、えへへ。 と、一緒なら大丈夫だよね?」
 桜は口元にマイクを運び、歌う準備をする。 電源もちゃんと入る、エコーもちょうどいい。 バッチリだ。
 「準備オッケーです!」
 「では上岡さん、姫宮さん。 宜しくお願いします」
 「あ、あの…」
 「大丈夫! ちゃんと歌えるよ!」
 「あ……」
 ミーコの手をぎゅっと握りつなぐ。 自信に満ち溢れた桜の顔を見て、ミーコの顔にわずかだが笑顔が戻る。
 「私もね、こうしてもらって歌えたから!」
 「……はい!」
 つながれた手に力を込め、ミーコは審査員たちを真っ直ぐ見つめた。

 結局ミーコは不合格となってしまった。 だがオーディションで桜と共に歌うことで自分の魅力をしっかり審査員たちに伝えることができたと、涙を流しながら喜んでいた。
 まだまだチャンスはいくらだってある、彼女には素晴らしいアイドルになってほしいと桜は心から願った。
 「へぇ、桜がそんなことを」
 「オーディションの結果は残念だったけれど、上岡さんはとても貴重な経験ができたわね」
 後日、オーディションでの出来事を楓と若葉に話す。 きっと今回のオーディションで得られたものは大きいと、事務所のソファーに寝転がりながら桜は話す。
 「ほら、私たちの初めてのライブで緊張しちゃってうまく歌えなかったでしょ、私。 そんなときね、楓ちゃんと若葉ちゃんが一緒に歌ってくれて心強かったんだ!」
 「あのときの桜ちゃん、すごく緊張していたわよね。 声も小さくて震えちゃって」
 「うんうん、一時はどうなるかと思ったけど無事に歌えてよかったよ」
 「あ、あのときはご迷惑おかけしてスミマセンデシタ」
 声を揃えて笑う楓と若葉。 でも、と若葉が付け足す。
 「3人一緒ならなにがあっても大丈夫だって思えるよね。 そんな仲間に出会えてアタシ、嬉しいよ!」
 「えぇ、私もよ。 私たちは仲間なんだから、頼ってもいいの」
 先ほどまで笑っていた2人はなんだか聞いていて照れてしまうようなことを話す。 桜は思わずクッションで顔を隠してしまう。
 「も~~~なんで急に真面目スイッチ押すのぉ!? 2人とも恥ずかしい~!」
 「あはは、照れない照れない。 そのミーコって子、いつかアイドルになれるといいね。 緊張しちゃってたけど、いいカンジの子だったんでしょ?」
 たしかにミーコは緊張でうまくパフォーマンスできないでいた。 が、桜と共に歌ったときは生き生きとしていてキラキラしていて、正にアイドル!という姿をしていた。 それを思い出して桜は頬を緩める。
 「うふふ、桜ちゃんがそんなに嬉しそうにするなんて。 とても素敵な子だったのね」
 「うん! それにね、私たちに憧れてアイドルを目指してるって言ってたから、そうやって憧れられるようなアイドルでいられるように…楓ちゃん、若葉ちゃん、これからも宜しくね!」
 「えぇ、こちらこそ」
 「宜しく!」
 自然と目の前に手を差し出す、そこに2人の手が重ねられる。 これからも輝き続けられるように、3人は決意を固めるのであった。


スタッフ
  小説:花沢 里穂
イラスト:東郷緑虎


公開日
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登場キャラクター
上岡 ミーコ(かみおか みーこ)
立花 ひよこ(たちばな ひよこ)



© 2013 「きらめけ!アイドル!!」シリーズ
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