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きらめけ!アイドル!!
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レッスン!
10周年記念小説

いつも通り意気込みを入れて一日を始める。

「今日は桜と楓と一緒にレッスンをする日。ボイストレーニングにダンスレッスンと、大変だけどこれも一人前のアイドルになる為、頑張るぞ!」

通行人の声が辺りに聞こえる中アタシは二人と一緒にいた。

「今日もボイストレーニングだね! テンション上がるよ!」
「桜ちゃんは本当にボイストレーニングが好きね」
「もちのろんだよ! 私は歌うのが好きだからね♪」
「ふふ」

ボイストレーニングが出来ると張り切る桜を、楓が微笑ましものを見る目で見つめている。それに関してはまったくの同感で、桜ほどこの時間を楽しみにしている人間はいないのではないかと思う。アタシも負けてられない。
あ、そうだ、いいこと思いついた…!

「桜、教室まで競争しようか!」
「何々、若葉ちゃんも早く歌いたいの?」
「もっちろん! 走るよー……よーい、ドン!」
「わわっ! ズルいよ若葉ちゃん! 私も……って、キャッ!?」
「桜ちゃん! 大丈夫?!」

アタシを追い掛けようとした桜が、持ち前のドジで何も無い道路で転けてしまった。楓がすぐに桜の容態を確かめる。桜のドジは彼女らしいけれど、慌ただしくていつも焦ってしまう。

「アタタ……」

アタシも桜の所まで戻る。

「大丈夫!?」

桜は痛そうにしながらも普通に立ち上がる。見た感じ怪我は無さそうだ。不思議な事に、よく転ぶ桜だが今まで怪我らしい怪我をした事は無い。私はそういう能力か何かじゃないかと最近疑っている。

「怪我は無いよね?」
「うん。全然大丈夫~~……」
「はい」

右手を桜に差し出して、起き上がらせる。

「あ、ありがと~~」

服に付いた砂を払った桜は……。

「と、いうわけで勝負再会!」
「あっ、ちょっと! 気をつけてよ!」
「勝負は油断した方が負けるんだよ!」

起き上がった途端に走り出した。さっきアタシが言った勝負をまだ続行するみたい。転んだばかりだっていうのに、それも忘れてしまったみたいに。まぁ、そこが桜の良いところだけど。

「ふふっ」

楓も笑い、私たちは桜の後を追う。



そうして一日のスケジュールを終えたアタシたちは、ダンスの先生にお礼を言って、教室を後にした。

「ありがとうございました!」

たくさんの人の足音や話し声が聞こえる街中でアタシたちは歩く。

「う~~……今日も疲れたよ~~……」
「そうね。私も疲れちゃった」

元々あまり体力の無い楓だけじゃなくて、いつも元気な桜も今日は疲れてしまったみたいだ。確かに、今日のレッスンはいつもより大変だった。

「若葉ちゃんはあまり疲れてないんだね」
「まぁ、アタシは体力はある方だから」
「いいなぁ~~」

桜はアタシを羨ましがるけど、アタシだって桜たちに追いつこうと頑張っている。特に、歌に関してはアタシは「Twinkle Sisters」の中で一番下手だと思っているから、その分ダンスは頑張るし、笑顔だって忘れないように気をつけている。

「う~~、若葉ちゃん肩貸して~~」
「はいはい」

疲れ果てたと言う桜を支えて歩く。こうやって、体力がある分二人のフォローだってする。二人を、アタシがちゃんと支えないと。

「それにしても、こうやって連日レッスンに追われる日々が中々結果に結びつかないのは辛いものがあるわね」

楓の言葉にアタシも深く賛同する

「そうだね。そう上手くいく世界じゃないのは知ってたけど」

そう。こんなに毎日頑張っても、アタシたちはまだ大きな仕事もライブもした事が無い。近所のアイドル喫茶という所で歌ったりした事はあるけど、やっぱり夢はドームライブ。今の時代はアイドル人気が復活して、色んなアイドルグループが注目されているけど、だからって全てのアイドルグループが成功するとは限らない。やっぱりテレビによく出るグループの方が人気が出やすいし、他にも事務所だったり、数だったり、考えると切りが無い。

「それでも、地道に頑張って行くしかないのよね」

頑張るしかない。難しい事を考えても何も始まらないんだ。どうせ無理とか思ったりした瞬間に、もう全部終わってしまう。努力を怠らない、なんだって全力で、そうすればきっと成功するって信じるんだ。

「すー……す……」
「桜寝ないで! 重いから!」
「うー……むにゃむにゃ……重いとか、意地悪言わないでよ若葉ちゃん……むにゃむにゃ」
「寝言はいいから起きて!」
「ふふっ」

アタシにもたれかかり眠る桜と微笑む楓を交互に見つめ思う
……それでもやっぱり、早く人気になって、トップアイドルになりたいと。それは間違っているのかな?

「むにゃむにゃ……若葉ちゃん……楽しみにしててね……」
「はいはい。何か知らないけど楽しみにしてるね」



それから数日後、アタシはオーディションを受ける事になった。内容はあるドラマのキャストなのだが、はっきり言ってアタシはあまり演技には自信が無い。こういうのは楓が得意だろうけど、やる事、やれる事はなんでもしないと。

オーディションは別室で数人ごとに行なわれる。アタシは今待機する方の部屋にいた。順番から考えてもう少ししたらアタシの番だろう。こういうのはいつだって緊張してしまう。アタシは桜と楓のことを考える。二人とも今頃はダンスのレッスンをしているんだろう。……二人が頑張っているんだから、アタシも頑張らないとっ。そう考えたところで、別室に呼ばれた。

やっぱり皆気合が入ってるなぁ……。アタシ以外のオーディションを受ける人も緊張している面持ちの人は何人かいるけど、皆化粧でピシっと決めていて、どうしても自分は他の人にどう見えているんだろうとか思ってしまう。アタシも色々準備はしてきたけど、大丈夫かな……。

そろそろアタシの番……。アタシは立ち上がって、前に出る。

「夢咲若葉です!」

そしてアタシは、事前に渡されていた台本を読み始めた。



「はぁ……」

結局、オーディションは落ちてしまった。しょうがない……だなんて思えなかった。やっぱり落ちると悔しい。

「もっと、頑張らないと……」

この程度で落ち込んでたらダメだ。もっともっと、努力するんだ。そして、いつか……。

「ん?」

不意に、スマホが鳴った。画面を見ると、桜の名前が表示されていた。なんだろう?

「もしもし?」
「……あ、若葉ちゃん? もしもーし!」
「どうしたの?」
「えーとね、今どこにいるの?」
「今はオーディションも終わって、事務所の近くだけど」
「そうなんだ! じゃあじゃあ、この後時間ある?」
「うん。今日は特にやる事無いし、大丈夫だけど」
「良かった! じゃあ、今から事務所に来て! すぐにだよ!」

そうして通話は切れてしまった

「え? ちょっと!?」

いったいどうしたんだろう。

「まぁ、行けば分かるよね」

アタシは言われた通りに事務所に向かった。



事務所は真っ暗だった。シンと静まり返っていて、誰もいないんじゃないかと、私は思った。もしかして、聞き間違えた?

「桜? 楓?」

呼び掛けながら、アタシは壁にある照明のスイッチを押した。その瞬間、クラッカーの音が鳴り響いた

「な、何!?」

「若葉ちゃん! 誕生日おめでとう!!」

「え、え、え?」

アタシはまだ何が起こっているのか分からなかった。

「今日はパーティーだよ!」

桜が咲き誇るような笑顔で言った。

「この日の為に事務所を貸し切らせて貰ったのよ」

楓もそう言い微笑む。

「えーと、アタシ、まだ何が何だか……」
「何言ってるの! 今日は若葉ちゃんの誕生日でしょ!」
「誕生日……」

そういえば、桜の言う通り今日はアタシの誕生日だったっけ。

「もしかして、忘れてた?」
「うん……オーディションがあるって緊張してて……」
「もー、若葉ちゃんはしょうがないな~~。もう私の事ドジって言えないね!」
「ホントに、ね……」

まさか、こんなサプライズがあったなんて。

「ホラホラ! 早く蝋燭の火を消して、ケーキを食べようよ!」
「それ、桜がケーキを早く食べたいだけでしょ」
「あっさりバレた!?」
「まったく、もう……」

用意されたケーキの前に立つ。アタシの歳の分だけ蝋燭が立ったケーキは、キラキラ輝いていて、とても綺麗だった。今日はオーディションに落ちてしまって、気分も落ち込んでいたけど、こんな嬉しい事が最後にあった。アタシが二人を支えなくちゃ、とか思ってたけど、そんな事無かった。アタシたちは、三人で「Twinkle Sisters」なんだから、アタシも二人に支えられてるんだ。二人の歌に祝われて、アタシは蝋燭を勢い良く吹き消した。明日からも、ずっとずっと頑張っていこう。そう、心に決めた。


スタッフ
  小説:月雲瑠依
イラスト:ルルカ


公開日
2023年12月17日



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