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きらめけ!アイドル!!
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ドラマチック
10周年記念小説

「今日は二人だけだねー」

その言葉に返したのは若葉ちゃんだった。

「そうねー 桜、もうちょい強めに引っ張って」

二人が今しているのはストレッチだ。

「こう?」

「うんうん、そんな感じ。やっぱりストレッチはしっかりとやらなくちゃ」
「ダンスのレッスンは大事だもんね……って、イタタタ!? 若葉ちゃん痛い! ストップ、待って! 無理無理無理ぃいいいい!!」
「桜はだらしないなぁ……」
「うぅ~~……痛いよぉ~~……」
「楓もしっかりと仕事やれてるかなぁ……」

私は撮影があって今日は二人とは別行動。今頃二人はダンスのレッスンをしてるのかな……。私も一緒にしたいけど、撮影だし仕方ないよね……。

「カットカット! 何度言ったら分かるんだ!」

監督の声が響いている。怒声…と言うべきか。

「……ハァ」

今日何度目になるか分からない溜め息をついた。仕方ない事とはいえ、こう何度もあるとうんざりね……。

荒い足音を立てて監督が近づいてくる。

「いいか! この場面に全てが掛かってるんだ! 何度も言うがお前の台詞には緊迫感が――」

「嫌な監督ね……」

共演しているとある女優がそうポツリと呟き、私はそれに共感する。

「そうですね……」

今日、私はとあるドラマの撮影の為に古びた本物の洋館がある森まで来ていた。本当はセットで済ませる予定だったけど、監督がリアリティーが足りないと言い出し、こんな事になった。

ふとケータイの着信音が鳴り響く。
監督のケータイだ。

「ん? ああ、俺だ、どうした?」

そしてその着信に出た監督はそのままどこかへ行ってしまった。分かってはいても、さっきは演技がどうのと言っていた人がする行動とは思えない。撮影担当の人が休憩を宣言し、一時的な休憩となった。

「楓ちゃん、アイドル活動してるんだって?」

休憩中、撮った映像の確認が終わると、声を掛けてくれたのは先程の主演の女優だった。

「はい」
「やっぱり、大変だったりするの?」
「そうですね。私はダンスが得意じゃないので、その分、歌は二人よりも頑張ろうと思っています」
「へぇ……迷いは無いんだね」
「どういう事てすか?」
「この業界は大変だから。ちょっとした事で仕事が無くなったりするし、覚悟って必要なんだよね。でも、あなたはもうちゃんと覚悟を決めているんだね」
「もちろんですよ。それが……私の夢ですから」
「そう。あっ、もう撮影始まるわね。なら、まずは目先の仕事を終わらせましょうか」
「はい」

カチンコの音が鳴る。
その瞬間空気の流れが変わった…?
そんな気がしたような。

「…にしても監督、遅いわね……」
「そうですね」

監督がどこかに行ったっきり戻って来ない。あれから30分以上経っている事もあって、みんなで探す事になった。

「監督ー! どこにいるんですかー!」

私も撮影現場の周辺を探す。森の中の洋館に来たものだから、足元が心許ない場所も多々あって、捜索は思うように進まない。転びそうになりながらも、私たちは監督を探す。そして――

「ひっ……!」

私は、それを見つける事になる。

「きゃぁああああああああ!!」

私は出せる限りの悲鳴を上げた。場所は切り立った崖のようになっている場所。柵があって、それはきっと誤って人が崖から落ちないように建てられているのだろう。けれど、今はその一部が壊れていて……そこから見下ろした場所……崖の下に監督が横たわっていた。

「どうしたの……っ!」

私の悲鳴を聞きつけて集まってきたキャストやスタッフの人たちが、崖の下を見下ろして息を呑む。崖の下の監督は頭から血を流していて、ピクリとも、動く事はなかった。

カチンコの音が鳴る。

現場には重苦しい沈黙が流れている。それもしょうがない。だって監督が死んだのだ。

「警察はまだ来ないのかしら……」

主演の女優さんが少し焦り出している。

「ここは山奥ですし、もう少し掛かるんじゃないですかね……」
「そうよね……」

誰もがあまり喋ろうとしない。特に、監督が死んだ原因については。それには理由があった。監督は、誰かに殺されたんじゃないかと推測されたからだ。そう考えたのは、監督は何故撮影現場から離れたあの崖から落ちたのかという事。崖の上にあった柵は特に腐っていたような跡も無かったし、誰かが監督を突き落としたんじゃないかと、この場に居る誰もが思っていた。言わないだけで。私も口出しはしなかった。私は第一発見者だから、下手に口出しをして疑われでもしたら堪まったものじゃない。――というのが理由。

「………………」

主演の女優さんが立ち上がる。

「どこに行くんですか?」

私が聞くと返答が返ってくる。

「ここにいても気分が悪いでしょう。空気が重苦しいったら」
「でも、今ここを離れると疑われてしまいますよ」
「大丈夫よ。私はずっとメイクさんと一緒に行動してたし」
「だとしたら、まだ近くに犯人がいるかもしれないのに歩き回るのは危険ですって」
「心配し過ぎよ。それに、私こう見えても空手やってた事もあるし。逃げるくらいならどうにかなるわ」
「あ……」

私の制止を聞かずに、彼女は歩いていってしまった。

カチンコの音が再び鳴る。

案の定と言うべきなのか、彼女は戻って来ないという事態になる。

「もう大分長い間帰って来ません。探しに行きましょう!」

私はそう言ってその場を離れる。

カチンコが鳴り場が変わる。

「ひっ!?」

私は見つけてしまう。森の中、木の影になっている場所で誰かに頭を殴られて倒れているメイクさんを。意外な展開に驚く私。そして――、

「あぐっ!?」

私も背後から誰かに殴られて意識を失う。最後に見えた靴は、どこかで見た覚えのある物だった。

「悪いわね……でも、気づかれたらいけないの」

その台詞を聞いて、数秒。

「カット!」

監督の声が聞こえて、私は起き上がる。

「大丈夫だった?」

女優さんが心配そうに声を掛けてくる。

「大丈夫です。少し痛かったですけど。あはは……」

「ごめんね! 私もあまりこういうのやった事なくて加減が分からなかったの!」
「いえいえ、大丈夫ですから。本当に」

「いやぁ、中々良い演技だったよ二人とも。台詞に緊迫感があったりして」
「ありがとうございます」

監督が私たちに話し掛けてくる。そう、これはドラマの撮影。映画の撮影にやって来た役者たちの中に、監督に恨みがある人間がいて、復讐を始めるという話だ。

「お疲れ様でした」

そして、一日の撮影が終わり、私はまたレッスンの日々に戻る。ドラマの撮影は何度か……まぁ数えるほどだけど……こなして来た。今回は結構台詞もあって目立つ役だった。これが、私たちのトップアイドルへの道に繋がれば良いけれど……ううん、弱気になったらダメ。私はいつだって全力だった。だから、今度こそ、絶対。

それから数日後、テレビで私の出演するドラマが放送された。桜ちゃんは終始緊迫感が伝わるような顔で視聴していたけど、ネットでのドラマのお話に対する反響はそれ程高くはなかった。ただ、

「わぁ、楓ちゃんの事が色々書かれてるよ! わっ、わっ、私たちの事も書かれてる!」
「へぇ……こういうのってやっぱり知ってる人は知ってるんだね」

ネット上では、ドラマに出演した私を見た誰かが「この子可愛い!」等と言って私の事を広めていってくれている。同時に、「Twinkle Sisters」の事も広まっていって、俄かに仕事の量も増え始めた。少しずつだけど、着実に私たちの名前を知っている人も増えて行く。そして、いつか絶対に…。

「三人で……Twinkle Sistersで、トップアイドルになろうね」
「うん! 勿論だよ!」
「アタシと桜も負けてられないね! よーし、がんばろー!!」

トップアイドルに、なろう。私のこの夢は、小さい頃に抱いた憧れは、もう私だけのものじゃない。三人の夢で、目標で、人生になった。桜ちゃんと若葉ちゃん……二人と一緒なら……「Twinkle Sisters」でなら、トップアイドルになれる。そんな、予感がした。


スタッフ
  小説:月雲瑠依
イラスト:ルルカ


公開日
2023年12月17日



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