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きらめけ!アイドル!!
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アイドル歌合戦!
10周年記念小説

楓ちゃんの出演したドラマを切っ掛けにして、少しずつだけど私たちの仕事も増えてきた。主にドラマやグラビアだったり。

「先生、ここの問題を教えてください!」

私は今ドラマの撮影中。学園物のドラマで、私は主演ではないけれど、一応名前がある役だ。撮影しているシーンは、先生に分からない問題を聞くっていうところ。先生役の俳優さんが、私に問題の解き方を教えてくれる。

「あ、成る程~~」

次の台詞を頭に思い浮かべながらも、私の頭の中は最近の活動に思いを馳せていた。そんなだから……。

「ん? χ^2+у^2=1と直線у=2χ+kが異なる2点で交わるように、定数kの値を定めよ。……んん?」

ノートに書かれた問題が目に入る。小声で呟いてみるものの、どうしよう、分からない。気づいた時には、私は手を挙げていた。

「先生、この問題分からないんですけどっ!」

そして静まり返る教室。先生も生徒も、カメラマンも監督も私を唖然と見ていて……。

「あ……す、すみませんでした!」

謝りながら、自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。そんな私を見て、皆は一斉に笑う。それは嫌な感じではなくて、和気藹々とした雰囲気だった。

「あ、あはは……その、すみませんでした!」
私も笑いながら、また謝る。考えてみると、私が何かしらのドジをするのはいつもの事だった。次は気をつけるようにと自分に言い聞かせて、また撮影に臨む。今日も私は通常営業だった。



「はぁ、はぁ……」
今日は休日。だからなんとなくジョギングをしていた。最近仕事が多くなって、せっかくの休日なのにアタシは何をしているんだと思ったけど、桜と楓が仕事で頑張っていると思うと、ジッとしてはいられなかったんだ。

「も、ダメ……休憩~~……」

大分走ったし、今日はもうこれくらいでいいかな。やり過ぎるのは良くないって、前に何かで聞いたし。ジュースでも飲もう。

「よ……とっ……」

私は自動販売機からジュースを買ってプルタブを開けた。

「ん、ん……っはぁ~~」

ジュースを飲むと大分落ち着いてきた。息も整った。さて、何をしよう。

「……歩こうかな」

こうやって街を歩いていると、あちらこちらに色んなポスターが貼られていて、時々…本当に時々、アタシたちのポスターを見かけたりする。それがとても不思議に感じて、次の瞬間にはやる気に変わる。アタシたちはここまで来たんだと言う自信みたいなのを貰える。

「頑張って、もっともっと頑張らないと……」
今のアタシたちがあるのは楓のお陰。でも、アタシたちだって負けてられない。

ぺちっと自身の頬を叩く。

「よーし、頑張ろう!」

そこからは走った。

桜は今日もドジをしているのかもしれない。楓はいつだって全力だ。アタシも頑張る。アタシたちなら、いつか絶対に、トップアイドルにだってなれる! そんな想いを胸に、アタシは家まで走った。これからのアタシは更に頑張れる。



「はぁ……」

ため息をつきながら椅子に腰かけた。

リハーサルは終わり。これからが本番となる。今日は初のソロシングルをテレビで披露するという事で、私はリハーサルで入念なチェックを欠かさないようにした。しかも初披露なのだ。

「桜ちゃんと若葉ちゃんはどうしているかしら……」

桜ちゃんは……いつもみたいにドジを踏んだりしながら、周りの人を笑顔にしているんだろうなぁ。若葉ちゃんは、今日もいつもより頑張っているかもしれない。

「ここまで、結構早かった気もするし、長かったような気もする……」

いつの間にか、私たちのお仕事の量は増えていた。時期的には、あのドラマの放映後くらいから。だからと言って、それが全ての元だとは思っていない。皆が頑張っているから、今の私たちがある。

「それでも不安にはなるわよね……ここで躓くわけにはいかないし……」

「ん? ……若葉ちゃん?」

若葉ちゃんからメールが届いた。

「……頑張って、か」

若葉ちゃんらしいといえば、若葉ちゃんらしい気がする。

「くすっ……言われなくても、頑張るわよ」

「あれ、今度は桜ちゃんから……楽しくって……」

ああ、本当に二人がいてくれて良かった。そうだよね、楽しく頑張るんだよね。私たちが笑顔なら、私たちを応援してくれる人たちも笑顔になってくれる筈だし。

「よしっ、頑張ろう……っ!」

気合を入れて、私は本番に臨んだ。



「アイドル歌合戦、ですか?」

桜がそうマネージャーへと聞き返す。

「歌合戦で優勝したら……ソロライブ!?」

楓がそう驚くとほか二人の声が揃った。

「えぇええええええええ!?」

一つのチャンスだった。



「優勝したら、かぁ……」

家に帰ってから改めて考えてみると、なんとも難しそうな内容ではないか。歌合戦には様々な事務所から、最近売り出し中のアイドルたちが参加する。イベントの趣旨としては、次世代のアイドルを育てるというものらしい。

「言い方を柔らかくしているだけで、実際の所、まだあまり人気の無いアイドルたちを集めてるって事だよね。でも……じょーとーよ」

桜も楓も、もちろんアタシだって頑張っている。でも自分たちがまだまだ未熟者という事は分かってる。なら、認めさせるだけ。

「ん……二人からメールか」

ほぼ同時に着いた桜と楓からのメールには、それぞれ頑張ろうという言葉と、ソロライブに出るという目標が掲げられている。私もそう思ってるよと打ち、メールを送る。

「よーし、寝よう!」

明日からは空いた時間は全部練習に使って、もっとダンスも、歌も頑張らないと……。そんな事を考えていると段々眠くなってきて、アタシはいつの間にか眠りに就いていた。



「ここの歌詞はしっかり気持ちを込めないと伝わらないと思うの。だから、もっと歌詞に感情移入しないといけないわ」

今は3人で歌の練習をしている。

「う、うん。分かってるよ? 分かってはいるんだけど、そろそろ休みたいなぁ……とか思ったり?」
「何ぃいい~~? 桜もう疲れたの?」

若葉が指摘した。桜の疲れは最高潮に達してしまっている。

「だってもう何時間練習してるの? 四時間だよ? そろそろ休憩した方がいいに決まってるよ!」
「まったく、もう。楓だって頑張ってるんだから、桜も頑張らないと」
「う~~、分かってるよ~~。時間が無いのも分かってるけど~~……」

楓がこちらを振り返り言う。

「……いえ、そろそろ休憩しましょうか」
「ホント!?」

桜は笑顔で喜びその場でジャンプした。

「勿論ホントよ」
「わーい!」
「楓、本当にいいの? 時間もうあまり無いよね?」

若葉の質問に微笑みながら言う。

「そうだけど、これで体調崩したら意味無いし」
「それもそうか」



桜ちゃんは持ってきた飲み物を飲んで、若葉ちゃんは汗をタオルで拭いている。私は歌詞カードを見ながら、どうしたらいいか考える。踊りはもう大分形になってきた。後頑張れるのはやっぱり歌だ。ずっと考えていた。どうしたらもっと上手くこの歌を伝えられるのかって。

「楓ちゃん」
「あ、何?」

桜ちゃんが心配そうに顔色をうかがってくる。

「えっとね、上手く言えないんだけど……難しく考えないで、笑顔! だよ?」
「え?」
「私が言いたいのはそれだけだから!」
「あ、ちょっと……!」

それだけを言って若葉ちゃんの方に行ってしまう。何やら妙な踊りをしてそれに笑ってしまい若葉ちゃんが飲み物を噴き出したりしているけど、私にはそれが殆ど見えていなかった。

「笑顔、かぁ……」

桜ちゃんはいつもそう言って笑顔を見せる。ドジだけど、桜ちゃんはいつも確信を突いている気がする。

「そうよね、笑顔……よしっ」

私は立ち上がり、二人に練習再開の合図をした。歌詞に気持ちを込めるのは大事だけど、それと同じくらい、笑顔も忘れずに。私たちは大会に臨もう。



「うぅ……き、緊張でお腹が……」
「桜、大丈夫なの?」
「あ、あまり……」

歌合戦の日は直ぐにやって来た。元々そんなに時間があった訳でもないし、分かっていた事なのに、それでもいざ本番となると緊張もする。でも、それじゃダメだよね。

「す~~……はぁ~~……」

深呼吸して…大丈夫。笑顔を忘れずに……。

「……よーし、もう大丈夫!」
「本当に? 大変そうならもう少し座っていた方が……」
「ううん。ありがとう楓ちゃん!本当に大丈夫だから」

ステージの方から歓声が上がる。私たちの前のグループが終わったんだ。
あ、そうだ…

「ねぇ、あれやろうよ、アレ!」
「アレって、アレ?」
ニヤリと若葉ちゃんが笑う。

「うん!」
「そうね。今が一番の勝負所だし、気合、入れないと」

楓ちゃんが賛同しながら手を差し伸べてきた。
私が右手を出す。そこに若葉ちゃんの手も重ねられて。

「Twinkle Sisters! ふぁいっ、おーー!!」
「おーー!!」



私たちは歌い切った。それはもう全力で。笑顔も忘れずに。後は結果を待つだけ。
「うぅ……緊張で脇腹が……」
「アハハ、桜、本番前と同じ事言ってるよ」
「でも、私も緊張してきたかも……」
「アハハ……実はアタシも……」

後は結果を待つだけ。それが途轍もなく緊張する。いや、別に何もここで全てが決まるわけじゃないんだ。次があると思えば……やっぱり無理!

「あ、結果が発表される!」

若葉ちゃんが言ったように、司会の人が結果を読み上げる。先ずは三位から……

「…はぁ、良かった。私たちじゃない」

楓ちゃんの言うように、三位は私たちの一つ前にやったグループだった。まず最初にエントリーナンバーが読み上げられるから怖かった……そして、二位は……

「……ふぅ。二位も私たちじゃない」

二位は優勝候補じゃないかと言われていたグループだった。そのグループが二位という事は、もう一位がどこなのか予想出来ない。

「もしかして、四位以下だったなんて事は……」
「ふ、不吉な事言わないでよ!」

若葉ちゃんの言うように心では否定しつつも楓ちゃんの言葉に、心臓の鼓動がいっそう高まった気がした。でも、信じないと。
自然に手に力が入る。
そして、会場が静寂に包まれた。皆が息を呑んで待つ中、とうとう発表された一位は……

「え、あ……」
「やったわ!!」
「優勝だ!!」

会場が歓声に包まれた。楓ちゃんと若葉ちゃんが跳び上がって全身で喜んでいる。私は、ただ呆然としていた。だって、こんな――

「桜! アタシたちが優勝だって!」

若葉ちゃんの言葉が信じられない。

「あ……本当、に?」
「本当よ! 私たち、優勝したの!」

楓ちゃんもそういってる。

「ソロライブだー!」

若葉ちゃんがそういった瞬間に現実が戻ってきた気がした。

「や……やったあああああああああ!!」

私は遅れてやって来た喜びに、大声で叫んでいた。歓声が私たちを包んで、そこには皆の笑顔があった。それは紛れも無い、私たちが夢への大きな一歩を踏み出した瞬間だった。


スタッフ
  小説:月雲瑠依
イラスト:ルルカ


公開日
2023年12月17日



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