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きらめけ!アイドル!!
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アイドルやめる

レッスンを終えた楓と若葉の2人は、事務所へと戻ってきた。 今日は桜は別行動で、後から合流することになっている。
長時間のレッスンに疲れた2人は、冷蔵庫から飲み物を取り出し休憩をしていた。
「桜ちゃん、今日は握手会だったかしら?」
「そうそう。 もう少ししたら帰ってくるんじゃないかな?」
事務所のソファーに座り、スポーツドリンク片手に若葉はテレビを見ていた。 テレビには自分たちと同じくらいの年齢のアイドルが映っていた。
「あのさぁ、楓~」
「なぁに?」
テレビに映る、楽しそうに歌うアイドルを見ながら若葉は目をキラキラと輝かせた。
同じユニットの仲間なのだろう、彼女の周りには色違いの衣装を着たアイドルが何人か居る。
収録中にも関わらず、仲間同士でふざけ合いながら楽しそうにしている。
その中でも初めに見たリーダーらしきアイドルは、誰よりも楽しそうに見えた。
「こういう子って正にアイドルってかんじだよねぇ」
「そうね。 かわいい衣装に眩しい笑顔…見ている方も楽しくなっちゃうわ」
「わかる! 見てるだけで元気貰えちゃうというか、アイドルになるために生まれてきたんじゃ?って思っちゃうよ」
リモコンで音量を上げる若葉の向かいのソファーに楓が座る。 ダンスレッスンでたくさん汗をかいたにもかかわらず、楓からはふわりと良い香りがした。
若葉と同じように楓も、テレビに映るアイドルを見て目を輝かせる。
2人が見入るアイドルは、ピンク色をベースにしたアイドル衣装を着ている。 小柄ながらも元気よく動き回るその姿は、なんだかある人物を思い出してしまう。
「…なんかこの子、桜みたいだよね?」
「あら奇遇、私もそう思っていたところよ」
「ちっちゃいのに人一倍動き回ってるところとか、すっごいそっくり!」
「ふふっ」
紅茶を1口飲み、ほう…と息を吐く楓。
「私も桜ちゃんみたいに、かわいくて元気いっぱいなアイドルになりたかったな」
「たしかに。 アタシも桜みたいな正にアイドル!てかんじになりたかったなぁ~」
楓と若葉はふと、いつも一緒の桜がいないことに寂しさを感じる。 ムードメーカーである彼女が居ないと、いつもより事務所がしんみりしているようにさえ思えた。
「…桜ちゃんって、どうしてアイドルになろうと思ったのかしら?」
「そういえば、そういう話ってあんましたことないよね?」
「えぇ。 桜ちゃんにアイドルって、天職と言うか…本当にぴったりよね」
「アイドルの中のアイドル、姫宮 桜!!みたいなね」
「うふふ。 桜ちゃんがアイドルを辞めるところ、想像つかないもの」
「たしかに~! 桜がアイドル辞めるなんて言い出したら雪どころか星が降ってくるんじゃないかな?」
楓と若葉が楽しそうに話していると、仕事の終わったプロデューサー・琴子が部屋に入ってきた。
「…あ~………どうするかなぁ」
頭をがしがしと掻きながら、眉間にしわを寄せている。 その姿から、なにか良くないことがあったのだとすぐわかった。
テレビに映るアイドルとは真逆な状態の琴子に、楓は心配そうに声をかけた。
「あの、プロデューサーさん。 なにかありました?」
「…いや、まずは本人から話を聞いてから……」
「プロデューサー!」
「…あ、楓に若葉。 お疲れー」
声に気付くと琴子は手に持った書類から目を離し、2人を交互に見た。
「あの、どうしたんですか? 今までにないくらい疲れた様子ですけど…」
「徹夜とかってわけじゃないよね? 今朝、アタシたちより遅く来て春子さんに怒られてたし」
「あー…うん、ごめん。 しばらくしたら帰ってくると思うから、本人に直接聞いて」
仕事中もマイペースでのんびりな琴子が、珍しく焦った様子でいる。 楓も若葉もそれ以上はなにも聞くことができなかった。
そんな2人に「ごめん」と小声で言うと、鞄からケータイを取り出し誰かに電話をかける。
呼び出し音が途切れ、女の人が電話に出るのと同時に琴子は外へ出て行ってしまった。
事務所に残った楓と若葉はしばらくの沈黙の後、お互いの顔を見合わせた。

アイドル番組はニュース番組に変わっている。 政治家たちがなにやら難しい話をしている。
楓は明日のスケジュールの確認、若葉は事務所にいつも置いてある雑誌を読んでいた。
琴子の一件ですっかり暗い雰囲気に包まれた事務所。 窓からは沈みかけの夕日が見える。
「…プロデューサー、なにがあったんだろうね」
「あれから1時間経つけど、帰ってこないわね…」
時刻は既に18時を過ぎていた。 いつもなら3人で楽しく話しながら帰っている時間だ。
この時間になってもプロデューサーどころか、桜さえ帰ってきていない。
「プロデューサーも心配だけど、桜も心配なんだけど…」
「桜ちゃん、17時半には事務所に帰れるって言ってたのにね」
「メールしても返事ないし、桜もなにかあったのかな」
「…まさか、プロデューサーがあんな様子だったのは桜ちゃんが関係しているのかしら」
「え?!」
思わぬ言葉に若葉は読んでいた雑誌を閉じて楓を見る。 いつもの強気な表情とは打って変わって、不安で今にも泣き出しそうな顔だ。
「それってどういうこと? 桜になにかあったってこと…?!」
「若葉ちゃん、落ち着いて。 あくまで予想よ?」
「あ…そうだよね、ごめん」
楓は若葉を落ち着かせると、スケジュールが所狭しと書かれた手帳を閉じる。 その手帳をおしゃれな水色の鞄にしまうと、入れ替わるようにケータイが取り出された。
「なんにしても、この時間になっても桜ちゃんからの連絡がないのが不安だわ。 電話かけてみるね」
「うん、お願い。 あ~…なにもなければいいんだけどなぁ…」
楓が慣れた手つきで桜に電話をかける。 ケータイから漏れる微かな呼び出し音が聞こえるくらい、事務所はしんと静まり返っている。
「…あら? この音…若葉ちゃんのケータイじゃないわよね?」
「え? いや、アタシ今マナーモードになってるから音しないはずだよ?」
楓のケータイから聞こえる呼び出し音だけでなく、どこからかポップな着信音が聞こえてくる。 どこかで聞いたことがあるような着信音だ。
「これ、外からよね?」
「まさか……!」
ソファーから立ち上がり、若葉は急いで外に飛び出した。 予想通り、着信音は外から聞こえてくるものだった。
そして、その着信音が聞こえてくる場所には…
「桜!!」
「え、桜ちゃん!?」
2人がずっと待っていたTwinkle Sistersのリーダーである桜が立っていた。 ケータイを片手に持ち、その場で立ち止まりしょんぼりと俯いている。
楓と若葉はそんな桜に慌てて駆け寄ると、なにがあったのか心配そうに聞く。
「桜、今日は握手会だったよね? なにかあったの?」
「帰りが遅いからずっと心配だったの。 大丈夫?」
「…ごめんね、2人とも。 心配かけちゃって……」
いつもの明るく元気な声からは想像できない暗く落ち込んだ声に、楓と若葉も落ち込んでしまいそうになる。
桜の手を引き事務所に戻ると、楓と若葉は桜をソファーに座らせた。
楓が備え付けのポットでお茶を沸かし、琴子の実家から送られてくる茶葉を使いお茶をいれる。 若葉は棚からお菓子を取り出し、桜に渡す。
「ほら、桜が大好きなコンソメ味のポテトチップスだよ。 お腹空いてるでしょ、食べな?」
「お茶もいれたから、どうぞ」
「ありがと…」
いつもなら誰よりも早くポテトチップスに食いつく桜だが、今日は手元にあるにも関わらずあまり興味を示していない。
相変わらず俯いたままで、なにも話そうとしない。
そんな桜の隣に楓が、向かいに若葉が座る。 楓はそっと桜の手を握り、顔を覗き込む。
「ねぇ、桜ちゃん。 一体なにがあったの? 元気のない桜ちゃんを見ていると、私たちも辛くなっちゃうわ」
「そうだよ。 言いづらいことだったら無理に言わなくていいけどさ…できることならアタシたち、桜の助けになりたいよ」
そう言われると桜は、こちらを覗き込む楓の目をじっと見つめ返す。 そこで楓は、桜がぽろぽろと大粒の涙を流していることに気付く。
「さ、桜ちゃん?! だ、大丈夫!?」
「ちょ、桜ぁ!? あんた、なんで泣くほど辛いこと黙ってるの?!」
「うぅ……ひっく、ひっく。 だって、私…どうしたらいいかわからないんだもん…!」
ソファーから立ち上がり桜を抱きしめる若葉。 肩を震わせながら桜は顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。
「桜ちゃん、どんなことでも私たち大丈夫だから。 だから、話してもらえる?」
「いじめられたとかじゃないよね? 桜のこといじめるやつはアタシが絶対に許さないから!」
「違うのぉ…!」
「じゃあなんで?!」
桜は涙声で一生懸命話そうとするが、なかなか上手く言葉に出せないでいる。
背中を優しくさすると、若葉は「無理しなくていいから」と言う。 その言葉に桜は首を横に振ると、大きく深呼吸して口を開く。

「私…アイドル辞める………」

その言葉を聞いて、楓も若葉も少し前の自分たちの会話を思い出す。
今日はきっと、星が降ってくるに違いない。
テレビでは政治家たちが相変わらず難しいことを話している。 できるなら、今のこの状態を解説してもらいたいところだ。



「桜ちゃん、アイドルを辞めるって…どういうこと…!?」
「じょ、冗談でも笑えないって言うか……桜らしくないよ、どうしたの!?」
「ごめんね、ごめんね…私だってずっとTwinkle Sistersでアイドルやっていきたいと思ってるんだよ!?」
「だから、なんで桜がアイドル辞めなくちゃいけないわけ!? やっぱりいじめ!?」
「違う、違うの!」
そこで一度言葉を切り、楓と若葉の顔を交互に見る。 泣きすぎて目元も鼻も赤くなってしまっている。
「あのね…今日の握手会が終わった後に、知らない会社の人に呼び出されたの」
「社長とかそういう人?」
「かなぁ…スーツ着てる男の人だったんだけどね、急にウチに来ないか?って言われて…」
「なにそれ、勧誘じゃん」
「来ないかって…それは桜ちゃん1人でってこと?」
「……うん。 もちろん、断ったよ!? だけど…」
再び桜は黙ってしまう。 目を泳がせながら、非常に言いづらそうにしている。
それでも必死に話そうと口をもごもごと動かしている桜を見て、楓も若葉も「頑張れ」と心の中で呟く。
しばらくすると意を決して桜は口を開いた。
「だけど、断ったらその人ね…それなら君の事務所がなくなることになるけどいいの?って言われて…」
「待ってそれ脅迫じゃん!? 桜が来ないなら事務所潰すとか…!」
「それ、プロデューサーさんには話したの?」
「ううん、そう言ったらプロデューサーさんや事務所の人たちを巻き込んじゃうかなって…」
「そういうことはちゃんと話さないと! アタシも楓もプロデューサーも、皆桜の仲間なんだよ?!」
若葉は桜の肩をつかみ、真っ直ぐに目を見た。 涙は止まったが、恐怖からか震えはまだ止まらないままでいる。
「私が黙って行けばいいことなんだけどね、楓ちゃんと若葉ちゃんが一緒じゃなきゃ楽しくアイドルできないなって…」
「アタシだって、桜が居ないTwinkle Sistersなんて嫌だよ!」
「私もよ。 3人だから今までだって頑張ってこれたんじゃない」
「うん……だからいっそ、私がアイドル辞めればいいのかなって。 2人と一緒にアイドルできないなら、アイドルなんて辞めた方がいいなって…!」
桜の言葉を聞いて楓と若葉は、テレビで見たあのアイドルを思い出す。
きっと彼女も、大好きな仲間たちと一緒だからこそあんなに楽しそうにキラキラ輝いていたのだと。
彼女から大好きな仲間を奪ったとしたら、きっと今の桜のようになってしまう。
ユニットの誰か1人でも抜けてしまったら、きっと残ったアイドルたちもキラキラ輝けないだろう。
それに…
「私たち、一緒に輝くって約束したじゃない」
「桜、言ってたよね? Twinkle Sistersは姉妹のようにいつも一緒に輝こうって」
「…!」
それはユニット名を決める話し合いをしていたとき、桜が言ったことだった。
自分がアイドルを辞めればそれで済むものだと思っていた。 しかし、自分が辞めたら仲間の楓と若葉もキラキラ輝けなくなってしまう。
「だって私たちは、一緒にキラキラ輝く仲間なんだから!」
その瞬間、桜の目は星のようにキラキラと輝いた。 楓も若葉も、その顔を見て笑顔になる。
「…っ、ありがとう楓ちゃん若葉ちゃん! 私、自分のことしか考えてなかった…3人でTwinkle Sistersだもんね!」
「そうそう、やっと思い出してくれたかな?」
「うふふ。 私も若葉ちゃんも、いつだって桜ちゃんの傍に居ることを忘れないでね」
「うんっ! …だけど、相手にはなんて話せばいいかな?」
無理やり自分の会社に引きずり込もうとした例の男性のことを、桜は気にしていた。 桜がアイドルを辞めることを考え直してくれたことには安心したが、問題を解決するにはこちらもなんとかする必要がある。
「う~ん…アタシとしては殴り込みに行ってもいいくらいなんだけど…」
「私たちが勝手に行動を起こしたら、それこそ事務所の人たちを巻き込んでしまうことになるわ」
「ど、どうしよ~…」
「それなら安心していいよ」
「ぷっ、プロデューサー!!?」
突然、琴子が話に加わってくる。 大きな音を立てて扉を開け、部屋に入ってくる。 どうやら、今帰ってきたようだ。
「ちょっとプロデューサーさん、乱暴に扱うと壊れて修理しないといけなくなりますよ? 修理代出してくれますか?」
「待ってごめん、ちょっと勢いつけすぎた」
「は、春子さんも!」
琴子の後ろからにっこりと笑顔を向けているのは、マネージャーである春子だった。
しっかりスーツを着た彼女は、いかにもデキる女性といった雰囲気をしている。
「あーえっと、つまり」
「なにがつまりなの?」
「つまりはつまりだ。 申し訳ないが、お前たちの話は全て聞かせてもらった」
「ごめんね、プロデューサーさんがどうしても聞きたいって言うから」
どうやら琴子と春子は今までの桜たちの会話を全て聞いていたらしい。 桜も楓も若葉も、誰も気付かなかった。
「それで、だ。 桜、嫌な思いをしたな。 まさかファンタジースタープロダクションのやつがそんなことをするとは思ってなくて」
「ファンタジースタープロダクション?」
「ウチとも何回かやり取りしたことがあるところでさ、真面目でしっかりした対応してもらったから信頼してたんだ」
「まさかこんなことになるとは思わなくて…ごめんね、桜ちゃん。 今回の件は私とプロデューサーさんが相手と話し合うから、気にしないでいつもの桜ちゃんでいてね」
「春子さん、アタシもついて行きます! 桜に辛い思いさせたやつ、こらしめてやりますよ!」
若葉が拳を強く握り、メラメラと燃えている。 そんな若葉に「ありがとう」と言うと、微笑みながら春子がは続ける。
「気持ちは嬉しいけど、アイドルである若葉ちゃんは評判もあるから来ない方がいいかな」
「評判なんて関係ないですよ! アタシ、ほんっとそいつが許せなくて許せなくて…!」
「ほらほら、熱血系アイドルはレッスンライブ三昧で忙しいんだから。 そんなことに時間使うなんてもったいないことしない」
今にも走って相手を殴りに行ってしまいそうな若葉を、ぴしゃっと止める琴子。
「時間使うなら、仲間とのための方がいいでしょ?」
「…まぁ、そりゃあそうだけど」
「ってことで、明日は仕事休み。 3人で遊びに行ってきな」
「「「えぇ!!?」」」
桜たち3人は声を上げて驚いた。
「だって仕事だってあるじゃないですか? いいんですか、アタシたち休みエンジョイしちゃいますよ??」
「いいよいいよ、どっちにしろ桜には休み必要だろうし。 どうせなら3人一緒のがいいでしょ?」
「そうですよ。 せっかくプロデューサーさん直々に休みをくれるみたいですし、楽しんできてください」
突如決まった休みに戸惑いつつも、久しぶりに3人でゆっくり過ごせることになり驚きを隠せないでいた。
「じゃあ、お言葉に甘えて…明日は休ませてもらいますね。 プロデューサーさん、春子さん、ありがとうございます」
「いえいえ。 …楓ちゃん、若葉ちゃんが暴走しそうになったら、宜しくね」
「ちょっと待ってよ春子さん、アタシが暴走ってどういうこと!?」
「あははは! 若葉ちゃん暴走しちゃダメだよ?」
「桜まで!?」
「うふふふふっ」
いつもの3人に戻り、笑顔で楽しそうにしている。 その様子を見て、琴子も春子も笑顔を浮かべる。

こうしてTwinkle Sistersの絆は今まで以上に強いものになった。



「ほら、楽しく話すのもいいけど時間は大丈夫?」
わいわいと話す桜たちに、琴子はケータイの画面に表示されている時計を見せる。
画面には太字で大きく19時37分と表示されている。
「じゅっ、19時!!? うそっ、もうそんな時間だったの!?」
「家族に連絡するの、忘れてたわ…!」
「みっ、皆心配してるよね…?!」
あたふたと帰り支度を始める3人を、まるで我が子を見るかのような優しい目で見る琴子と春子。
2人にとって桜たちTwinkle Sistersは、我が子のようにかわいいのだろう。
「さぁ、もう少ししたら事務所も閉めるからね。 気を付けて帰ってね」
「はいっ! お、お疲れ様でしたー!」
ばたばたと帰っていく3人を見送ると、琴子はため息を吐きながらソファーに座った。
「あー…さて、春子さん。 ファンタジースタープロダクションのやつ、どうしますか?」
「そうですねぇ…うちのかわいいアイドルをいじめたわけですし、それ相応の対応をしてもらえたらと思っています」
にっこり笑顔でそう言う春子に、琴子は苦笑する。
「春子ってさー…おとなしそうに見えて腹黒いよね」
「そんなことありませんよ♪」

帰り道、桜たちは3人並んで歩いていた。 夕日もすっかり沈む、空は夜色に染まっていた。
「いやーそれにしても、桜がアイドル辞める!なんて言ったときは心臓が止まるかと思ったよ」
「うぅっ…お騒がせしてしまい誠に申し訳ありません…」
「うふふ。 ちょうどね、桜ちゃんに会う前に若葉ちゃんと話してたの。 桜ちゃんがアイドル辞めるなんて言ったら、星が降ってくるんじゃないかって」
桜みたいに正にアイドル、といったアイドルになりたいと話していたときだ。 まさか、話したすぐ後に桜がアイドルを辞めると言い出すなんて思いもしなかった。
「そのときはね? 私も若葉ちゃんも、桜ちゃんみたいなアイドルになりたいなって思ってたの」
「え、なんで?」
「だって桜さー、アイドルの中のアイドル!ってかんじじゃん。 羨ましいなって思ってたんだ」
「…だけどね、思ったの。 桜ちゃんと一緒なら、私は桜ちゃんと違ったアイドルになるのも良いかなって」
そう言うと楓は桜の手をぎゅっと握った。 若葉もそれを見て、桜の手を握る。
「私は私らしく、桜ちゃんと若葉ちゃんと一緒に楽しくアイドルできたらそれで幸せだなって」
「そうそう! 桜にないものをアタシと楓が埋めて、アタシと楓にないものを桜が埋める! どう?」
「いいねいいね! 私もね、楓ちゃんのおしとやかさとか若葉ちゃんのボーイッシュさとか、羨ましいなって思ってたんだよ! だから、それは2人に埋めてもらおっと♪」
「りょーかい!」
「任せてね」
つながれた3人の手はこの先もきっと…トップアイドルになるその日になっても、離れることはないだろう。
楽しそうに話す3人の頭上には、今にも降ってきそうな無数の星たちがキラキラと輝いていた。


スタッフ
  小説:花沢 里穂
イラスト:341


公開日
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