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きらめけ!アイドル!!
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恋すること

久しぶりに休日を貰ったTwinkle Sistersの三人。 今日は、桜は友人と、楓は妹と出かけるようだ。
そんな中、若葉は特に予定もなく自宅で雑誌を読み漁っていた。
「はぁ…休み貰えたのは嬉しいけど、特にやることもなくて暇だなぁ」
ページをめくりながら、溜息混じりにそう呟く。 雑誌には正に女の子、といったかわいらしい服を身にした少女が何人も写っている。
「ん?」
ふと、若葉はページをめくる手を止める。
毎回違ったお題を決め、街中の人物に聞く「トツゼン聞いてみちゃいまショウ!」というコーナーが載っているページだ。
「…あなたは今までにどのくらい、恋愛をしたことがありますか………かぁ…」
女子高生が目を輝かせながら「あんた好きな人いるの?」というアレだ。 自分の学校だけでなく、女の子は皆こういった話が好きなようだ。
しかし、若葉はページの文字を滑るように読みつつも、たまの休日に似合わぬどんよりとした表情をしている。
(アタシもこういう服が似合うかわいい女の子だったら、恋とかそういう話に興味持てたのかなぁ)
若葉は今までに一度も、誰かに恋をしたことがなかった。 親しい男友達なら他の女子の何倍もいたのだが。
しっかりとした、頼れるお姉さんのような性格。 そして、ボーイッシュでファンも同性である女性が圧倒的に多い若葉。
現に、同じアイドルユニットで活動している桜や楓からも「かっこいい」だとか「男の子顔負け」だなんて言われている。
そんなわけで、若葉は今現在に至るまでに一度も恋愛はしたことがない。 現在進行で恋をしているわけでもない。


Twinkle Sistersでも以前、ライブで自分たちの出番を待っている時に話したことがあった。
(たしかあの時は桜が言い出したんだっけ。 二人は恋したことある?って)
もちろん、若葉の答えはNOだった。 自分もそうだからと、桜も楓もまだ経験ないだろうと考えていた矢先。
「私はね、小学生のときに一回だけあるよ!」
「えっ」
「私も…一度だけ、好きになった人がいたわ」
「ええっ」
桜も楓も過去に一回ずつ、恋をしたことがあったと話す。 この話をした頃から、若葉は人一倍に恋愛に敏感になっていた。
普通の女の子なら、一度は好きな人ができて恋をするものなのではないか。 若葉の頭の片隅にいつも、そんな考えがあった。


(…今までに一度も恋したことないアタシって、やっぱりおかしいのかな……)
雑誌上では高校二年生のNさんや、OLのTさんが今までの恋愛経験について楽しそうに語っている。
いつの間にか好きになってた、相手から告白されてOKを出してみた…その他、多数。 若葉にはなんとも理解できないことだった。
(そもそも自分が好きじゃないのに付き合って楽しいのかな? いつの間にか好きになってたっていうのも…こう、具体的にはいつ?みたいな……)
若葉は座っていたソファに寝転がり、雑誌を腹部に置く。 なにもない天井をぼんやり見つめ、大きな溜息を吐く。
ここ最近、アイドルと学生の円滑な両立のためアイドル活動中の空いた時間には勉強を、学生生活の空いた時間にはダンスの練習をと、なかなか生活に余裕がなかった。
こうして久しぶりに休日を貰え、少し心に余裕ができたのだろう。 普段、あまり考えないことを考え気疲れしてしまっていた。
「せっかくの休みなのに、なにやってんだアタシぃ……そりゃあ、気にしてたことだけどさ」
クラスで恋愛話に花を咲かせている友人を見て、自分だけ話に加わることができなかった。 それがとても悔しくて、自分だけ置いてけぼりにされているようで良い気分ではなかった。
もう少し成長すれば、自然と意識せずとも恋するだろう。 そう思っていた中学生時代から一歩も進めていなかった。
「ああ~~~~!!! もうっ、恋ってほんっとなんなんだろ……わけわかんないー!」
置いてあったクッションに顔を埋め、大声でそう叫ぶ若葉。 その叫びに反応したかのように、ケータイはポップな着信音を鳴らした。
画面に「姫宮 桜」と表示されているのを見ると、急いでケータイを手にし、応答ボタンをタップする。
「もっ、もしもし桜? どうしたの?」
「あ、若葉ちゃんおはよー! 今大丈夫だった?」
「うん、暇で暇で仕方ないから雑誌読んでたところ」
「そっか、よかった!」
友人と出かけると言っていた桜からの急な連絡に少し驚きつつも、どんよりと沈んだ気分が晴れるような明るい声に笑顔がこぼれた。
ケータイからは桜の高い声と、最近発売したばかりのTwinkle Sistersの曲が聴こえてくる。 どうやら、部屋で聴いているようだ。
「それで、なにか用事? 桜、今日は友達と出かけるって言ってたじゃん?」
「あははー。 それがね、急な予定が入っちゃってキャンセルされちゃったんだ~」
「アハハ、ご愁傷様」
どうやら桜も若葉同様、予定がなくなり自宅で暇している様子だった。 見ていたテレビの話、雑誌の話をした後、若葉はいつかのように桜に聞く。
「ねぇ、桜って恋したことあるんだよね?」
「え?どうしたの~? 急にそんなこと聞いてきて」
「いや~なんとなく。 読んでた雑誌に『あなたは今までにどのくらい恋愛したことありますか?』みたいなこと書かれててさ」
「へぇ~。 女の子向けの雑誌ってそういう内容多いよね!」
「ほんっとに。 見てると眩しすぎてクラクラしてきちゃうよ」
「私たちだってTwinkle Sistersで『輝く姉妹』なんだから、キラキラ眩しいはずだよぉ?」
「アハハ、たしかに!」
毎日、家族と同じくらい長い時間一緒に居る仲間との会話は、自然と若葉を笑顔にさせた。


「えっと、恋したことがある?って話だったっけ?」
「そう」
「前も言ったとーり、一回だけあるよ! 小学生のときに」
「そっか」
話を戻し、若葉からの質問に答える桜。 前に言っていたとおり、一度だけ恋愛経験ありとのこと。
「だけど、私の片思いで終わったよ。 中学校は別のところだったから、小学校卒業してからは一度も会ってないし」
「なんで桜はその人のこと、好きになったの?」
「えぇ? ん~~~~どうしてだったのかなぁ……」
桜は考えながらもチューチューと音を立てながらジュースを飲む。 桜のうなり声がしばらく続くと、何年も忘れていたことを思い出したくらい大げさに叫ぶ。
「ああ~~そうだ!そうだよ!! クラスが同じになったときにたっくさん話してね、友達から「桜ちゃん、あの人のこと好きなんでしょ~?」って言われてから意識し始めたんだった!」
「じゃ、一目惚れとかではなかったってこと?」
「うん! っていうかね、友達にそう言われるまでは良い人だな~としか思ってなかったもん!」
「ふふっ、そっか」
話が進むにつれテンションが高くなっていく桜。 そんな桜の話を聞いて、やっぱり自分はそういった経験をしたことがないなと再認識する若葉。


「若葉ちゃんは恋したことないの?」
「え? アタシ?」
「うん! そういえば前に話したとき、若葉ちゃんからはまだ聞いてなかったなって思って」
一通り質問に答え終わると、逆に桜が若葉にそう聞く。 若葉は何度も悩んだとおり、恋をしたことがない。
「えぇーと…アタシ、は。 実は、今までに一度もないんだ」
「へぇ~珍しい! クラスにイイね!って思う人いないの?」
「う~ん、みんな良い人なんだけど恋とは違う、かなぁ?」
「そっか~」
やはり桜も、一度も恋愛をしたことがないという若葉の言葉に驚いた様子だ。
せっかくの機会だと、若葉は恐る恐る桜に聞く。
「あのさ……やっぱ、それっておかしいのかな……?」
「え?」
「ほら、今までに一度も恋したことないってこと…」
若葉のしょんぼりとした様子に気付き、声を少し落ち着かせる桜。 若葉の声の調子から相当悩んでいるんだと気付いた桜は、かけていた自分たちの曲を止める。
「若葉ちゃん、前にライブの出番待ってるときに聞いてきたことあったよね? その時からずぅ~っと悩んでたの?」
「ずっとって言うか、毎日忙しくてそういうこと考える余裕もなかったけど…休み貰えて余裕できたから、ちょっと考えちゃってた」
「…ん~、具体的にはどうして悩んでるのかな?」
「ぐ、具体的に…?」
具体的にはどうして悩んでいるの?という桜の質問に、若葉は戸惑う。
恋をしたことのない自分は女の子としておかしいんじゃないのかな?どうすれば恋をすることができるのかな? 若葉はそう悩んでいた。
しかし、恋愛経験がある桜からしてみればそれはきっとおかしいことで、そう言えばきっと呆れられるんじゃないかと不安になった。
「若葉ちゃん~?」
「………あっ、ごめん! えっと、具体的に、だよね……」
「無理に言わなくても大丈夫だよ? 若葉ちゃん、相当悩んでるみたいだし」
落ち着いた声で話す桜、どのくらい自分を心配してくれているのか若葉には痛いくらいわかった。
(このまま話さないでいたらモヤモヤするし……それに、もういっそ打ち明けちゃった方が楽になれる気がする)
若葉は意を決し、自分がどんな理由があって悩んでいるのか話す。
「女の子なのにさ、高校生になっても一度も恋したことないって…おかしいよね? アタシ、どうしたら他の子みたいに恋できるんだろうって…」
若葉が言い終えると、桜は少し黙る。 言っちゃった…と少しの後悔を感じながらもモヤモヤが晴れて安堵する若葉。
「あー……ごめんね、こんな重たい話になっちゃって。 でも、話してスッキリしたよ!」
「……若葉ちゃん」
「ん?」
「恋しないことって、おかしいことなのかなぁ?」
「へ?」
若葉の話を聞いた桜はしばらく考え、恋をしないことはおかしいことなの?という答えに辿りついた。
思いもしない答えに、思わず若葉は首を傾げる。
「仮に女の子は恋しないとおかしい!ってことだとしてもさ…若葉ちゃんは若葉ちゃんでしょ?」
「アタシはアタシ…?」
「そう! 私や楓ちゃん、他の女の子が恋してるからって若葉ちゃんもしないと駄目!なんてことはないよ? 他と比べたって意味ないもん!」
「でも、おかしくない? 恋しないって」
「おかしくないよ~! 若葉ちゃんが恋したいって思ってるなら、きっといつか素敵な人が現れるよ! そんなに焦ることも、悩むこともないんじゃないかな?」
そんな桜の言葉を聞き、若葉はハっと気付いた。

アタシはアタシ。
他と比べても意味ない。
焦ることも、悩むこともない。

「…そうだよね。 アタシはアタシ、夢咲 若葉。 他の人がそうだからって、自分もそうじゃなきゃいけないだなんてこと、ないよね!」
「そうだよ! 女の子らしいことも良いけど、なによりも自分らしくが一番だよ~!」
「桜、ありがとう! なんか、今まで悩んでた自分がバカみたい。こんな簡単なことだったのにさ」
今まで恋愛話になると「自分は他と違っておかしいのかな?」と悩んでばかりだった若葉。
しかし、桜の言葉から自分は自分のままでいいんだと気付くことができた。
「アハハ、なんかこういう話って普段あんまりしないから緊張しちゃったよ」
「今日の若葉ちゃん、すっごく女の子してて新鮮だったよ~!」
「でも、恋したことが一度もないんだよ?」
「恋してなくても女の子は女の子、そして若葉ちゃんは若葉ちゃんだよっ!」
「アハハ、そうだったそうだった!」


久しぶりの休日、一日目。
沢山悩んで疲れた若葉だったが、胸のつっかえがなくなりとても気持ちよかった。
桜との通話を終わらせた後、読みかけの雑誌を読む。
相変わらず雑誌上では高校二年生のNさんや、OLのTさんが自身の恋愛話について楽しそうに語っている。
(アタシもいつか、こんな風に恋する日が来るのかな?)
まだわからない未来のこと。 少し前までの自分ならきっと、このコーナーを読めば読むほど、憂鬱な気分になっていただろう。
だけど、今は違う。 いつか自分もこんな風になるのかな?なんて、まだわからない未来の自分を頭に描いてワクワクしていた。
「本当にありがとうね、桜」
若葉がこっそり呟くと、またしてもそれに反応してかケータイはポップな着信音を鳴らした。
着信はついさっきまで話していた桜からだった。
「桜、どうしたの?」
「大事なこと言い忘れてたよ~~!!!」
「えっ、なに?」
「私たち、アイドルだから恋愛しちゃ駄目だったんだよ~~~!!!」
「……アハハ、たしかに」


アイドルは恋愛NG…だからあんなに悩む必要は、少なくとも今はなかったんじゃないかな…?


スタッフ
  小説:花沢 里穂
イラスト:花沢 里穂


公開日
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