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きらめけ!アイドル!!
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数年越しの真実

「ん~! 今日はとっても良い天気!! 楓ちゃんと若葉ちゃんを誘って、お買い物にでも行こうかなぁ♪」
桜は、伸びと欠伸をほぼ同時にする。
連日、テレビ番組の出演や、ラジオ収録で休む暇もあまり無い。
桜達にとっては、久しぶりの休日である。
桜は、早速スマホを取り出して、楓と若葉に連絡を取った。
待ち合わせ場所は、いつもの喫茶店。
桜達が住んでいる所から、目と鼻の先だ。
先日、購入したばかりのお気に入りの洋服に身を包み、買い物用のバッグを片手に出掛ける。
まだ朝早いせいか、人通りが少ない。
暫く歩いていると、目の前の歩道で、しゃがんでいるおじさんを見つけた。
胸を苦しそうに抑えている。突発性の発作かもしれない。
「おじさん、大丈夫ですか!?」
桜は慌てて駆け寄ると、おじさんの肩に手を掛けた。
「お嬢ちゃん、心配してくれてありがとうよ」
「ここは、車道が近いから、安全な所に行こっ? 私の肩に寄りかかっていいからね」
言った傍から、車が桜達の横を通り過ぎていく。危ない。
桜は、おじさんを気遣いながら、近くの河川敷に腰を下ろした。
「ここなら空気も綺麗だから、深呼吸がいっぱい出来るね」
桜がそう言っておじさんの方を見ると、荒い呼吸を繰り返している。
「おじさん、辛いの? 救急車呼ぼうか??」
「いいや、呼ばないでくれ。この発作は、いつもの事だからね」
おじさんは胸を押さえて、桜を見た。
「それよりも、私なんかと一緒に居ていいのかい? 用事があったんじゃないのかね?」
「あっ、そーだった! 楓ちゃんと若葉ちゃんに連絡入れないと!!」
桜は思い出したように手を叩くと、バッグからスマホを取り出す。
電話で多少遅れることを伝えてから、電話を切ると、おじさんの方に向き直った。
「おじさん、大分良くなったかな?」
「あぁ、落ち着いたよ……ありがとう」
「でも、また無理したら再発しそうな感じがするよ? おじさんの家まで送って行ってあげる」
「私は、ホームレスの身さ……家はあっても無いようなものだが、付いて来てくれるかい?」
「うん! あ……おじさん、もしかして……身分を証明するものが無くて、救急車を呼ばないでくれ、って言ったの?」
「ははっ……そうだな、それもある。後、私は昔から病院というものが苦手でな」
「あははっ、おじさん子供みたーい♪ おじさん、名前何て言うの??」
「私は、峰崎だ。峰崎歩」
桜と峰崎は会話をしながら、歩き始めた。
「ねぇ、峰崎おじさんって呼んでもいい?」
「あぁ、構わないよ。お嬢ちゃんは何ていうんだい?」
「私は、桜! 姫宮桜だよ!!」
「桜ちゃんか、風貌に合った名前だな」
「ありがとう!!」
桜がニコニコしていると、暫くしておじさんの表情が陰った。
「浮かない顔をして、どうしたの?」
「『命のある限り、人は誰でもやるべき事があるんだ』」
急にそう言われたが、言われた意味がわからなくて、首を傾げる桜。
すると、そんな桜の表情を見たおじさんは、苦笑した。
「……ってね、おじさんの友達がそう言い残して、先日亡くなったんだ」
「そうだったんだ……何が原因で亡くなっちゃったの?」
「放火犯による殺人らしい。ここ最近、この付近では連続放火魔が出没していてね。ホームレスばかりを狙っているようなんだ」
そこまで聞いて、桜は自分の手をポンと打つ。
「あ、そういえば、その事件、新聞で読んだよ! もう3件目ぐらいだったよね?」
「あぁ。身近に居る人が亡くなってしまうのは、いくつになっても辛いもんだな」
「そうですね。……それにしても、酷い事をする人が居るね」
「だろう?」
二人は同調しながら、河川敷の傍にある散歩道を歩いた。
散歩道はくねったりしていなくて、真っ直ぐの道が続く。
その道を二人で肩を並べて歩いていると、遠くに人影が見えた。
「あれは……誰だ? もう少し先に行くと、私の仮住まいがあるが……」
「急いで行ってみよう!! 走れる??」
「……あぁ、少しなら」
走って少し経ってから、おじさんの仮住まいのテントに辿り着く。
すると、異臭が鼻をついた。
男が一心不乱に何かを撒いている。
この特殊な臭いは……ガソリンだ。
「やめろ! 何をしてるんだ!!」
おじさんが叫ぶと、男の動きが止まる。
そして、身を翻して走り去っていく。
男が向かった先に、二人の女の子がこちらに歩いてくる姿が見えた。
「……あれは若葉ちゃんと、楓ちゃん!」
桜は、片手を振って、叫んだ。
「若葉ちゃん、楓ちゃん! そっちに走って行った男を捕まえて~!!」
桜の声に、逸早く気付いた若葉が近くを通り過ぎようとする男の腕と襟を掴んで、取って投げる。一本背負いだ。どすん、という大きな音が響く。
「若葉ちゃん、さすが!!」
思わず、桜は拍手した。
男が目を回している隙に、桜とおじさんが歩み寄る。
みんなで逃げられないように取り囲むと、男は観念したように全身を脱力させた。
「前に放火したのもお前だな?」
男は黙って、こくりと頷く。
「……ホームレスが生活弱者だからって理由で放火したのか?」
「違う。俺は……俺は峰崎歩という男に復讐してやりたかったから、ここら辺に住んでいるっていう情報を聞きつけて、放火したんだ!」
「峰崎歩は私だが……お前は誰なんだ」
おじさんは、男の目深く被ったフードを下ろした。
「……君はもしかして、神田か?」
「覚えていたのか」
「覚えているさ。私は一度会った人物の顔は忘れん性質でな」
「それならば、俺が復讐してやりたかった理由ぐらいわかるだろう?」
神田はおじさんを睨み付けている。神田という男の表情から、殺意らしきものを感じる。
「会社の金を横領した制裁として、クビにしたことをまだ恨んでいるのか」
「もちろんだ! あの件があってから、妻と離婚をし、再就職も出来なくて路頭に迷うことになったんだ!!」
「お前もホームレスに……? でも、それは全て、自分が蒔いた種だろう?」
「うるさい!!」
神田は、逆切れをするように怒鳴った。
「桜ちゃん、警察に電話してくれるかな?」
「うん、任せといて!!」
桜が警察に電話をしてから、5分程でパトカーがやってきた。
おじさんは事情聴取をされると、その後すぐに開放された。
神田は……というと、観念して全てを自白し、手錠をはめられたようだ。
肩をガックリと落として、パトカーに乗り込む姿が桜の目に映る。
「ねぇ、峰崎のおじさん。おじさんは、あの人をクビに出来る立場だったんだ?」
「あぁ、中小企業の社長だった」
「ひぇ~、すごい! そんなすごい立場のおじさんは、何で社長を辞めちゃったの??」
「若かりし頃の私は、やり手だった。やることなすこと全て成功した」
「? それなら、辞める必要ないよね?」
「だが、必要無いと思った人材はバッサリ切り捨てていたから、内部的な反発が多かった。そんな反発があってか、私は若くして第一線を退いたんだ」
「そうだったんだ……」
桜は、おじさんの神妙な顔つきを見て、妙に納得させられた。
「その後、大病を患い、このまま病気に蝕まれていく事に恐怖を感じ、自殺を考えたよ」
「考えただけ? 自殺を思いとどまる何かがあったの?」
「ラジオ、さ」
「ラジオ??」
想像だにしなかった単語が出てきて、桜は驚く。
ラジオという身近なものから、自殺を思いとどまらせる程の力があるとは、到底思えない。
「病室でラジオを聴いていたんだ。すると、ある曲が流れてきて……確か歌っているグループは『Twinkle Sisters』って、言ったかな? 絶望しかなかったのに、生きていく希望をもらったんだよ」
その話を聞いて、桜の表情はぱぁっと明るくなった。
まるで、その名の通り、桜という花が咲いたように。
「それ、私達の事だよ!」
「え?」
「『Twinkle Sisters』っていうグループ名は、私が付けたの♪ 隣に居る楓ちゃん、若葉ちゃん、そして私を合わせて『Twinkle Sisters』だよ!」
「そうだったのか……! 君達が!! あの時は、ありがとうよ!!」
おじさんは、感極まったように桜達の手に握手した。
「えへへ~、ラジオ越しの事なのに、面と向かってお礼を言われると、何だか照れくさいね」
「そうですね」
「努力が報われた、って感じだな!」
楓と若葉が桜の言葉に、頷き合う。
「もう一度、歌ってもらっていいかな?」
「……え、ここで!?」
桜は思わず躊躇する。
早朝で人があまり居ないけど、騒音だと思う人が居るかもしれない。
「駄目かね? ここは一つ、歌唱練習だと思ってよろしく頼むよ」
「……わかったよ。今日は、おじさんの為だけに歌うね。いいでしょ? 楓ちゃん、若葉ちゃん!」
おじさんの申し出に負けて、桜が楓と若葉に目配せする。
「おう! 任せとけって!!」
「外で歌うなんて、久しぶり……まるで野外ライブみたいだわ」
「あははっ、そうだね。……じゃあ、良い? 歌うよ?」
二人の了承も得られたので、桜は早速歌い出した。
緊張していたせいか、音程を二・三個、しょっぱなから外してしまい、桜は恥ずかしくなる。
おじさんは泣いていた。
「……峰崎おじさん」
「すまない、ずっと君達の歌に癒されてきたものだから……数年前のどん底だった時の自分を思い出してしまって――」
涙を拭うおじさんの表情は、晴れやかだ。
「ありがとう、私の為に歌ってくれて」
「ううん。気にしないで! 私も歌えて楽しかったから!!」
桜達の歌を聞きつけてだろうか。周囲がガヤガヤし始めた。
「それじゃ、これで私はお暇させてもらうよ。……また機会があったら会おう」
「うん、またね!」
さよならなんて、言わない。
おじさんとは、また会える気がするから――。
桜達は、おじさんが去って行く姿をいつまでも見守っていた。

あれから、一年が経とうとしてた。
桜と若葉と楓に、以前よりも沢山の仕事が舞い込んできて、更に忙しく働いている。
「マネージャー、次はどこのスタジオに行けばいいの?」
歌の収録が終わって、防音室から出ると、桜は待機しているマネージャに声を掛けた。
「次は……急だけどプロデューサーが呼んでるから、プロデューサーの所に向かってくれない?」
「うん、わかった~」
プロデューサーが桜達の事を呼ぶなんて、珍しい。
何かお説教でもあるのかな、と桜は不安になった。
通された室内には、見覚えのある男性が居た。
「……峰崎のおじさん!!?」
「やぁ、桜ちゃん。元気にしてたかい?」
ニコニコ顔のおじさん。
それと、仏頂面のプロデューサーが居る。
プロデューサーは、ガリガリと自分の頭を掻いて、口を開いた。
「待ってたぞ。実は、『Twinkle Sisters』に新しいスポンサーが付いてくれた事を伝えようと思ってな」
「新規のスポンサーって、もしかして……」
桜がおじさんの顔を見る。
「私の事だよ。あれから、ある会社の会長と出会い、私の事情を知ったら、わが社で面接してみないか、って言われ、面接を受けたら合格したんだ。熱心に働いている内に、もう一度社長に返り咲く事が出来たって事なのさ」
「すご~い! 峰崎のおじさん、人はやれば何でもできるんだね!!」
「もちろんさ、諦めない心。それさえあれば、人は成長していけるのさ……」
お茶目にウィンクしてみせるおじさんが、可愛い。
「……って、格好つけて言ってみたけど、実は放火されて私の代わりに死んでしまった友人に、あのままの生活を続けていたら申し訳なくてね」
「『命のある限り、人は誰でもやるべき事があるんだ』??」
「そう、それ。友人が死に、私が生き残ってしまったのだから、私が友人の分も含めて社会に恩返しをしなければいけないな、と思ったんだ」
「それで、私達のスポンサーに??」
「あぁ、私が死ななかったのは、元はと言えば『Twinkle Sisters』のお蔭だからな」
おじさんの言葉に、桜は飛び跳ねた。
「嬉しい! ありがとう!!」
「これからも、『Twinkle Sisters』の歌、楽しみにしているよ」
差し出された手に握手をすると、桜達は次の仕事があるのでおじさんとプロデューサーと別れた。
「さぁ、急いで。次の現場まで時間が無いわよ!」
マネージャーに急かされて、車に乗り、公演がある場所へと向かう。
三人でこれからする公演について語り合っていると、程なくして目的地に到着した。
桜達は、舞台衣装に着替えて、歌い出しの音程確認や振り付けを再確認する。
「みんな、出番よ」
マネージャーの声に、舞台裏に待機した。
歓声が聞こえる。
この幕の先には、桜達の事を待ってる人達が居る。
いつものように、円陣を組む。
桜は、言った。
「行こう、歌を届けに!」
「おう!」
「任せてください!」
桜は、楓と若葉と目配せを交わす。
幕が上がった。
『Twinkle Sisters』は、歌い続けるだろう。
彼女達の未来を、スポットライトが照らし続けてくれるように――。


スタッフ
  小説:夢廼あくい
イラスト:緋月陽菜


公開日
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登場キャラクター
峰崎 歩(みねざき あゆむ)
神田 圭一(かんだ けいいち)



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